novel
大体三匹ぐらいが斬る!! back next登場人物
武藤玲司(鯖丸) 貧乏な大学生。魔力も身体能力も高いし、知能も低くないが、性格が大バカ。最近色んな意味で暴走中の天然ボケ。自称ジャニーズ系。
ジョナサン・T・ウィンチェスター(ジョン太) 犬型ハイブリット。素で強い上に、魔法まで使う様になった反則キャラ。新装備に腹巻きとパッチが加わった。
如月トリコ(トリコ) 元政府公認魔道士。エロい、軽い、巨乳、外界ではロリキャラの最終兵器姐さん。でも、けっこういい人。
柱谷真希(エンマ) NMC関西本社の社員。火炎系の魔法が得意。魔界では男だが、実は女の子。特能、鏡像コピー。
御木元紗理奈(サリー) NMC関西本社の社員。エンマのパートナーで元キャバ嬢。自分と接触した人間を消す、ステルス能力の使い手。
上方ヨシオ NMC関西本社の社員で、お笑い芸人。魔法使いとしては中堅だが、本業ではあまり売れていない。元走り屋。
佐々原修二(海老原) NMC関西本社の社長の次に偉い人。マイティーマウスの別名を持つ凄腕の魔法使い。外見は、凄く地味。
如月海斗(ハンニバル) 六年振りに異界から戻って来たトリコの夫。殿の弟子に体を乗っ取られているが、時々正気に返る。
殿の弟子 異界から来た魔法使い。ハンニバルの体を乗っ取っているが、鯖丸に乗り換えようと狙っている。名前は未だにない。
ランサーエボリューション(ランエボ) すごく速い車だが、車内は散らかり放題で、可哀相な扱い。大体三匹ぐらいが斬る!!
5.三匹(vol.5)
現実で、自分がどういう状態になっているか、ジョン太はすっかり忘れていた。
身体感覚が分からなくなる程、深い場所まで潜らなければ、お互いリンクを張れなかったのだ。
鯖丸も、忘れていたらしく一瞬戸惑ったが、すぐに何事もなかった様に続きを始めてしまった。
「いや…待て。リンク張り終わったのに、続ける意味あるのか、お前。嫌ーやめてぇ」
鯖丸が、全然お願いを聞いてくれないので、仕方なく終わるまで付き合う事にした。
くそっ、調子に乗りやがってこのガキ。あとで絞める。
普通に腕力で振り払って逃げればいいのに、おっちゃんもだいぶ変だ。
結局最後までやって、二人で仲良くベッドに横になった。
どう見ても、ええ感じのゲイのカップルだ。
「どんな感じ?」
鯖丸は聞いた。
「最悪だ」
ジョン太は答えた。
「魔法使えそうか、聞いてるんだけど」
おぢちゃん、最初の目的も忘れるくらい、心身共にダメになっている。
「うーん」
手の平を目の前にかざして、ぎゅっと握り込んで力を入れてみた。
奇妙な手応えがあった。
「何となくやれそうだが、ここで思い切り使ってみるのも危ないしなぁ」
「別に、攻撃魔法使ってみなくてもいいじゃん。回復系とか」
「何が悲しゅうて、魔法使いになって一発目に魔法使う相手が、自分のケツなんだよ」
ジョン太は、怒鳴った。
「ごめん、ついノリで」
鯖丸は言った。
「嫌なら逃げるかと思って」
「そうだった…」
今頃気が付いて、呆然としている。
起き上がって、何か首をかしげながら一点に意識を集中した。
暗い部屋の中で、魔法が発動する時の軽い振動があった。
ジョン太は、ほっとため息をついた。
「ああ、使えるみたいだな」
使えなかったら、バカがもう一回とか言いかねない。
「後は、明日確認しよう。今日はもう寝るよ、俺は」
よろよろベッドを降りて、バスルームのドアを開けた。
明かりは、さっき点けた時の様に力を入れなくても、指先で触っただけで簡単に灯った。
ええー、晩飯は?とか文句を言っていた鯖丸は、ドアを閉めかけたジョン太に忠告した。
「中までよく洗っときなよ。後でえらい事になるから」
「嫌な忠告、ありがとうな」
げっそりした気分でシャワーのハンドルを捻って、言われた通りによく洗っておく事にした。
回復魔法をかけたので、痛みはないが、まだ異物感があって嫌な感じだ。
もう一回乾かすのは面倒だが、全身に熱いシャワーを浴びて、さっぱりしてから寝たい。
赤いマークの付いている方にハンドルを回した。
いつまで経っても、ぬるま湯しか出ないので、熱い方に全開にしたが、温度が変わらない。
外界と違って、安定してお湯を出すシステムが使えないのだろうが、今は、もうちょっと熱いお湯を使わないと、落ち着かない感じだ。
そう云えば、俺の魔法って火炎系だったな…と、ジョン太はいらん事を思い付いた。
温めればいいんじゃないのか、これ。
シャワーを浴びながら、壁に付けられた金属の配管パイプを握った。
ちょっとだけ…。
力を込めた瞬間、失敗したのが自分で分かった。
微調整が出来ない。
いきなり熱湯が噴き出した。
うぎゃーというジョン太の悲鳴が聞こえたので、鯖丸は飛び起きた。
一体、何しでかしてるんだ、あのおっちゃんは…。
手探りでバスルームのドアを開けると、眩しいくらいに明かりが点いていた。
狭いユニットバスの中は、水蒸気が充満して、煙っていた。
慌てて、ハンドルを捻って、水を出そうとしている男と目が合った。
「お湯にしたかったのに。熱い、最悪だ」
壁に蹴りを入れて怒っている男を、ぼんやり見た。
「ええと、ジョン太…?」
疑問形で言ったのは、見た事もない男が目の前に居たからだ。
金髪で青い目の中年男が、水の出始めたシャワーを浴びて、ほっとした表情で肩を落としている。
微妙に北欧系の顔立ちで、けっこうハンサムだ。
初めて見る顔だが、なぜか見覚えはあった。
ついさっき、リンクを繋ぐ時に見た、別の姿になってしまったジョン太だ。
現実でもう一回見る事になるとは、思わなかった。
そうか…拓真って、みっちゃんにあまり似てないと思ったら、父親似だったんだな。
「ああ、何かもうちょっと微調整出来ると思ったんだけど…」
「慣れたら出来るよ」
鯖丸は言った。
「それより、ちょっと鏡見てみな」
ジョン太は鏡を覗き込んだ。
知らない奴が居たので飛び下がったが、様子を見て、鏡に向かって手を振ったり、変なポーズを取ったりして、鏡の中の男と自分が連動しているのに気が付いた。
「ええと…」
しばらく考えた。
「疲れてるんだな、俺。幻覚が見える」
バスタオルを持って、風呂を出た。
無かった事にするつもりらしい。
体を拭きながら、暗い部屋の中を二三歩あるいて、何かにぶつかって転んだ。
「ええ?何でこんなに暗いんだ。どうなってんだよ、これ」
それは、自分で照明を壊したからじゃないかと言いかけて、鯖丸は止まった。
確かに、普通の人間には暗いが、この程度ならジョン太には見えていたはずだ。
まさか、身体能力まで普通になっちゃったのか?
「まぁいいか、一晩寝たら元に戻ってるかも知れないし」
こんな暗い所でごちゃごちゃもめるのも面倒くさいので、自分もちゃっちゃとシャワーを使って、バスルームを出た。
照明の点くバスルームのドアを開けっ放しにして、脱いだシャツとトランクスを拾った。
「ジョン太、ちょっとそこ避けて。俺ももう寝る」
「お前、晩飯は?」
ベッドに座り込んで、ぼんやりしていたジョン太は聞いた。
「眠いから、もういい」
一年中愛用している、一週間大丈夫なTシャツを着込んで、さっさと布団に入ってしまった。
あっという間に寝息が聞こえ始めた。
きっと、急に魔力が上がったから、何か変な感じがするんだな。うん、そうだ。そう言う事にしよう。
ジョン太は、鯖丸の隣にごそごそ潜り込んで、寝る事にした。
たぶん、中々寝付けないだろうと思っていたのに、意外なくらい早く、眠りに落ちた。
翌朝、鯖丸はジョン太の叫び声で目を覚ました。
自分の隣で、ジョン太がベッドの上に体を起こして、自分の両手を見つめたまま、英語で何か怒鳴っている。
ああ、やっぱり昨日のままだなぁ…と、眠い目をこすりながら、鯖丸は思った。
大体、ジョン太の奴、何で全裸で寝てるんだよ。
絵面的には、本気でええ感じのゲイのカップルになって来た。
「どうなってんだ、これ。毛皮がねぇ。お前か?お前が刈ったのか」
「そんな訳ないだろ」
鯖丸も、ごそごそ起き出した。
「まぁ、顔でも洗って、落ち着いたら?」
昨夜から照明が点きっ放しのユニットバスに入って、洗面台を覗き込んだジョン太は、悲鳴を上げた。
「うわー、夢じゃなかったー」
鏡の中をしげしげと見てから、自分の全身を確認した。
東洋人に比べれば毛深いが、全然毛皮ではない。大体、毛の色も違う。
「えらい事になったなぁ、若い頃のじいちゃんそっくりじゃねぇか」
何か、集中して元に戻ろうとしている様子だったが、鯖丸の方を見た。
「お前、あの鬼丸からさくっと元に戻るやつあったろ。あれ、どうやってるんだ」
「勝手に変な名前、付けるなよ」
ズボンとトレーナーを着込んでいた鯖丸は、ぼやいた。
「ええと、何て言うか、内側に折りたたむ感じ…?」
そんな説明じゃ、全然分からん。
バカに聞くんじゃなかった。
「まぁ、自分で出来なかったら、後でトリコがどうにかしてくれるんじゃないの」
そうかも知れないが、この姿でいきなり出て行って、俺だって分かるか?
ジョン太は、とりあえずこの場は諦めて、顔を洗って歯を磨き始めた。
だから、何で裸なんだよ、このおっちゃんは。
色々ショックな事があって、気が回らなくなっているのか、普段の生活が丸出しになってしまっている。
顔を洗って出て来たジョン太は、鯖丸を見て、あれ…という表情をした。
「お前、そんな顔だったかな」
「こんなだよ。ジョン太、昨夜暗い所で見えてなかったじゃん。目も悪くなったんじゃないの」
「いや…前より良く見える。何か、物が鮮明に見える。特に、近くの物がはっきりしてて、気持ち悪い」
見慣れた顔を、しげしげと近くから見た。
「お前、抜糸しないで回復魔法かけるから、額の傷が変な事になってるぞ」
鯖丸は、自分の額に触った。
「ええ、どうしよう」
「後で糸抜いてやるよ」
そうか、遠距離射撃能力や暗視能力を上げる為には、視覚の別の部分が犠牲になっていたのかも知れないな…と、思った。
鯖丸が、変な顔をしているのに気が付いたジョン太は言った。
「お前、俺が時々眼鏡かけてるから、老眼だと思ってただろう」
「うん、実は思ってた」
鯖丸はうなずいた。
「ところでジョン太、そろそろ服着たら?」
ジョン太が身形を整えて居る間に、鯖丸はいつも通り、素早く顔を洗って歯を磨いてヒゲを剃った。
部屋に備え付けの安全カミソリを、ジョン太の方に寄越した。
「その、微妙な無精ヒゲは、剃っとく?」
ジョン太は、自分の顔をなでた。
顔の形が変わってしまっているので、けっこう違和感はあるが、顔の毛の事は、自分では気にならない。
「どうだろう。見苦しいならそうするけど、後で元に戻った時、この辺だけ毛が無くなったりしないかな」
「うーん、分からないけど、見苦しいという程でもないよ」
「じゃあ、いいか」
髪の毛は、少し気になるのか、手櫛でかき上げてちょっと整えている。
全体として、まぁきっちりしているとは言えないが、だらしない程でもない。
ハリウッド映画に出て来そうな、ちょっとくたびれた感じの刑事とか、そんな感じだ。
ガンベルトを手早く装備して、いつもの格好になったが、姿形が違うので、全然印象が違う。
「皆は、芦屋の常宿だって言ってたけど、場所知ってる?」
鯖丸は聞いた。
「ああ、何度か泊まってる。けっこう距離があるから、車使おう。お前、ランエボのキー、持ってたよな」
ヨシオ兄さんから、預かったままになっている。
鯖丸はうなずいた。
「じゃあ、出よう」
いつも通りに支度を終えて、二人は部屋を出た。
受付には、若い娘が居た。
置物の様なじいちゃんと交代したらしい。
照明のスイッチ、壊したんだけど…と言うと三千五百円請求された。
何を基準にした値段か、全く分からない。
一応、領収証をもらってベルトの物入れに仕舞ったジョン太は、入り口の戸を開けて、外へ出た。
あっという間に、まるでバリヤーにはじき返される様に、戻って来た。
「何だ!」
鯖丸は、刀に手をかけて、外へ飛び出した。
何事もない朝の光景があった。
魔界とはいえ、けっこう都会なので、普通に出勤したり、仕事を始めている人々が行き交っている。
クリスマスの飾り付けが所々にあるのも、外界と同じだ。
出現したのが二十数年前なので、四国の魔界の様に、古いスタイルの生活は残っていない。
「何もないよ、ジョン太」
鯖丸は振り返った。
「寒い」
ジョン太はうなった。
「毛皮が無い奴って、こんなに寒いのか」
そりゃあ、寒いだろう…と、鯖丸はジョン太の服装を見た。
夏も冬も、全く同じシャツとズボンを身に着けているだけだ。
おまけに、習慣でシャツの袖をこち亀の両さんみたいに捲ってしまっている。
「今年は寒波が来てるらしいよ」
白い息を吐きながら、鯖丸は歩き出した。
一年中適温のコロニーで育っていても、地球に来て六、七年も過ぎれば、暑さ寒さには慣れて来る。
この場合の慣れるというのは、体が慣れるだけではなく、服装で温度調節する技術の向上だ。
「その辺で服買えば?」
「そうする」
近所に、高架下の商店街があった。
まだ、半数以上の店は開いていないが、早朝から営業している店も、ぼつぼつあった。
昔ながらの、いかにも用品店という感じの店で、ジョン太は、サラリーマンのおっちゃんがスーツの下に着そうな、暗い灰色のセーターを手に取っている。
もっと考えて選べよ…と思ったが、サイズが合うのはそれだけらしく、色は何色でも、どうでもいいらしい。
「上着も買えば?セーターだけじゃ寒いだろ」
「なるほど」
世間体以外の理由で、服を着た事のないジョン太は、忠告に従った。
地味なジャケットしか売ってないので、本格的に、うらぶれた渋い刑事物の主役みたいになって来た。
じゃあ行こうか…と鯖丸は店を出ようとしたが、ジョン太は、下着関係のワゴンをじっくり見ている。
「なぁ鯖丸。腹巻きって暖かいかなぁ」
うろんな事を言い始めた。
「知らないよ」
ダメだ、こいつ本物のおっさんだ。
おまけに、店のオヤジが、今時ステレオタイプのコントでしか見かけないパッチとシャツを出して来た。
全部着用したら、立派なバカボンのパパが出来上がる仕組みだ。
「ジョン太…それはちょっと引く」
某ユニクロのヒートテックタイツ(黒いやつ)でも着用は躊躇われる若者は、言った。
「うるせぇ、俺は今人生一寒いんだよ」
おっちゃん、世間体とか気にしている余裕がない。
「そう…朝からあれだけど、うどんとか食って行く?ぬくいし」
鯖丸は聞いた。
服を重ね着して、きつねうどんをすすったせいか、ジョン太は急速に元気になった。
走っている間に、車の暖房も効いて来たので、快適だ。
うどんでは当然足りないらしく、いつの間に買い込んだのか、串カツをくわえたまま運転しながら、鯖丸は聞いた。
「ジョン太も要る?」
袋の中に、ソースをかけた串カツが紙に包まれて無造作に入っている。
「お前、朝からよくそんな脂っこいもん食えるな」
ジョン太は呆れたが、一本だけもらうわ…と言って、袋に手を突っ込んだ。
さっくり揚がっているので、意外と食える。
「蓮根かよ。肉食えよ、肉」
袋ごと寄越して来た。
運転しながらなので、衣のかすをぼろぼろ食いこぼしている。ランエボ台無しだ。
ヨシオ君が見たら泣く…と思ったが、そう言えばあいつもお好み焼き食ってたなぁ…と、思い出した。
ダッシュボードと後部座席には、包み紙やコーヒーの空き缶が放り出されているし、灰皿には吸い殻が満杯になっている。
だらしないなぁ、本社の奴らは。掃除しろよ…。
ため息をついて、車内に落ちていたコンビニ袋にゴミを拾って入れているジョン太を、鯖丸は横目で見た。
動作も言動もジョン太なので、特に違和感はないが、外見だけ見ると別人だ。
「やっぱり、変かな」
本人の方が違和感があるらしく、聞いた。
「うーん、変じゃないけど、何て言うか」
鯖丸は言った。
「ジョン太、本当に外人だったんだなぁ」
「最初からそう言ってるだろ」
ジョン太はぼやいた。
「ちょっと聞いてもいい」
指示された通り、穴の周辺を避けて、遠回りで芦屋方面に向かいながら、鯖丸は言った。
「何だ」
「何で、国連宇宙軍に居たのに、四国の田舎で便利屋やってるの。元々日本人だって言うなら、分かるけど」
「ばあちゃんが日本人だから」
それは、前にも聞いた。
説明になってないという表情をされたので、ジョン太は諦めて事情を話した。
「ほら、俺って退役する時、けっこう酷い状態になってただろ」
リンク張ったんだから、見たはずだという口調だった。
「面倒見てくれる人が居ないと、日常生活もまともに出来ないから、じいちゃんとばあちゃんが居る所に移されたんだよ」
「あ…ご両親は居ないんだ」
悪い事を聞いたという感じで、鯖丸は言った。
「居るよ。まぁ、忙しい人達だから、あちこち飛び回ってるけどな」
今まで、突っ込んだ話を聞くのも何だか悪い気がしたので、その辺の話題に触れるのは止めていたのだが、そろそろ付き合いも長いし、リンクも張ったので、もういいだろうと思って、聞いてみた。
「ジョン太の両親って、何やってる人なの」
「うーん、バイオ関係の会社やってる。子会社もいっぱいあって、色々大変らしいよ」
予想もしない事を、言い始めた。
「俺は、そういうの興味ないし、向いてないから家業は継がなかったけど」
「ええぇ、お坊っちゃまかよ、ジョン太」
強面っぽく見えて、実はすごくいい人だったり、すれている様に見えてへたれだったり、微妙なキャラクターの理由が、ちょっと分かった。
「まぁ、そこそこ育ちはいいかな」
社長の御子息が謙遜していらっしゃる。
「オヤジとお袋とは、もう何年も会ってないなぁ。美織が生まれた時に、見に来てくれたのが最後かなぁ」
「そうなんだ」
どうコメントしていいか、分からない。
「お前こそ、何で四国に居るんだ。宇宙からの帰国子女が定住するには、微妙な場所だろ」
逆に、ジョン太に聞き返された。
「叔父さんが居たから」
言いにくい事らしく、微妙な表情になっている。
「父さんの弟で、親戚って、他に居なかったんだけど…俺もあの頃は悪かったし、暁も遠慮無く出て来てた頃だし」
手に負えなかったらしい。
「高校までは、寮に入ってて、生活費も学費も、出してもらってたんだけど、もう面倒見きれないって言われて」
「よくそんなで進学しようと思ったなぁ、お前」
何となく呆れた。
「どうにかなるかと思って」
うちに面接に来た時には、ほぼどうにかならなくなってただろうが…この子は全く。
「お前って、何か将来大物になりそうな気がして来た」
ジョン太は言った。
「ならないよ。普通に就職して、普通に家庭を持って、平穏に暮らす予定だから」
大物が小市民を目指すと破綻するぞ…と内心思ったが、気の毒なので言わない事にした。
「そうか。まぁ、無理はするなよ」
自分の事を普通だと思い込んでいる、変なおっちゃんに言われたくないなぁ…と、鯖丸は思った。
お互い様だった。
芦屋の常宿に近付くと、街並みが変化した。
放棄されて荒れた穴の周辺から、人が生活している暖かみのある風景に切り替わった。
上品な感じの街で、現役で使われている様子の古い家も多い。
昔から住んでいる愛着のある場所を、魔界になっても離れなかった人がけっこう居るらしい。
フロントで部屋を聞いて階段を上がると、皆は一部屋に集まっていた。
地形が高台になっている事もあって、窓からは穴が一望出来る。
小さな点の様な状態だが、ハンニバルらしき動く物が確認出来た。
「ただ今戻りました」
挨拶して部屋に入ると、皆がこちらを向いた。
「ご苦労様です。意外に早かったですね」
海老原さんが、テーブルの上のポットから、紅茶を注いで渡してくれた。
「それで、どうなったんだ」
トリコは、心配そうに聞いた。
鯖丸は、にっと笑ってピースサインを出した。
「きっちり魔法使える様にして来た」
「すごいな、お前。大変だったろう、あいつとリンク張るの」
「うん、一回じゃ無理だったんで、リバースで二回」
周囲がどん引きする様な事を、平気で言っている。
「うわー、さすがに引くわ、それ」
自分と同じ顔のエンマ君に引かれると、ちょっと微妙だ。
「それで、ジョン太は?」
鯖丸は、廊下の方を振り返った。
「実は、ちょっと変な事になってて…」
背の高い、ごつい男が普通に部屋に入って来た。
「誰?」
全員が聞いた。
「ジョン太」
「え…?」
さすがの海老原さんも、手に持ったカップを取り落としそうになっている。
「鯖丸、君なぁ、なんぼあんなごっついもん見せられて、ジョン太が逃げたからゆーて、その辺のおっさん代わりに拾て来るなや」
ヨシオ兄さんが、言った。
ごついって何がだ。見たのかよヨシオ兄さん。
「こんな変なおっさんが、その辺に落ちてる訳ないじゃん。ジョン太だよ、これ」
一見弁護している様で、実は酷い事を言っている。
「誰が、その辺に落ちてるおっさんじゃー」
ジョン太は、鯖丸の首を絞めた。
「あ…ジョン太だ」
「うん、ジョン太やな」
それで分かるのもどうか…。
「うわー、これ、ほんまもんのジョン太か?外人やん」
ヨシオ兄さんは、しげしげとジョン太を見た。
「最初からそうだよ」
あんなに何回も言ったのに、人の話聞いてないのか、このお笑い芸人は。
「目ぇ青いやんか。気色悪ー」
「それも最初からだ。殴るぞ、お前」
「えっ、そうだっけ」
鯖丸にまで言われた。がっかりだ。
「もういい…トリコ、これ元に戻せないか」
「何だ、自分で戻れないのか」
トリコは、ジョン太を眺めた。
「魔法使ったら、こんなになって。鯖丸は折りたたむとか、訳分からん事しか言わないし」
「うーん、折りたたむよなぁ、あれ」
「うん、たたむねぇ」
サリーちゃんもうなずいている。
「そのままじゃダメなのか」
トリコは聞いた。
「ダメに決まってるだろう。寒いわ、暗い所で物は見えないわ、鼻は利かないわで、もう散々だ」
「いやぁ、かっこええわージョン太」
サリーちゃんは、ため息をついた。
「そのままでええやん」
「うん、ビジュアル的には、一人ぐらい男前が居た方がいいな」
女性陣には好評だ。
「何ぃ、ジャニーズ系の俺より、そんなくたびれたおっさんがいいのか」
「わしも、お笑い芸人の中では男前や。勝負したるで」
「ホストクラブでバイトしても、全然バレなかった俺が相手になったるわ」
ああ、バカが増殖している…。
ていうか、エンマ君、外界では女だろ。ホストクラブでバイトすんな。
「すいません、海老原さんお願いします」
バカ三人と男前大好きな女二人は諦めたジョン太は、海老原さんに頼った。
「僕も、昔は美少年やったんですけどねぇ…」
海老原さんは、ため息をついた。
「オジサンになっても男前とは、羨ましい話です」
「あの…海老原さん?」
「しばらく、そのままで困ってなさい」
「ひどい、海老原さんまで。トゲ男があんな変な姿になってる理由が、今分かった」
「冗談ですよ」
ティーカップをテーブルに置いた海老原さんは、ジョン太の顔を両手で押さえて、五つ数えた。
「はい、終わり」
「おお、本当にたたむんだ」
感心しながら、あちこち点検して確認している。
トリコとサリーちゃん以外は、全員ほっとした顔をした。
「大丈夫か?あれ」
暑くなったのか、部屋の隅で服を脱ぎ始めたジョン太を、トリコは指差した。
「何か、微妙に弱ってないか」
「まぁ、その辺は色々大変だったし」
鯖丸は、ぶつぶつ言った。
「俺の事も心配してよ。本当に大変だったんだから」
「うん、分かるよ。大変だったろ、あれ引っ張り出すの」
仕事中は、プライベートは持ち込まないのが暗黙の了解になっていたのに、何だか今日は変に絡んで来るなぁ…とトリコは思った。
「それもあるけど…」
トリコの手を握って、口ごもった。
普通にしているが、肩が震えている。
「悪いけど、ちょっと外すな」
皆に断って、鯖丸の手を引いて部屋を出た。
隣の部屋のドアを開けて、入った。
女の子二人部屋になっているらしく、トリコの上着と、サリーちゃんが着ていたフェイクファーのコートが放り出されて、荷物が散乱している。
「どうした」
トリコは聞いた。
「本当に、大丈夫か?お前」
ドレッサー兼机の前に置かれた椅子に座って、鯖丸は俯いた。
「全部思い出した。けっこうきつい、これ」
リンク張っているので、何をどう思い出したのかは分かる。
屈み込んで肩を抱いた。
「そうか、辛いな」
「忘れたままにしとくより、マシなんだけど」
鯖丸は、トリコにぎゅっとしがみついた。
「ごめん、ちょっとの間甘えていい」
「いいよ」
鯖丸は、トリコの胸に顔を埋めて、しばらく泣いた。
肩を抱いて、頭を撫でていたトリコは、ふいにぴしゃりと後頭部をはたいた。
「こら、ついでに乳揉むな」
「だって…」
外界では、散々エロい事をやり尽くして来たが、実は仕事中にいちゃいちゃしている訳にもいかないので、大きい方のトリコに触る機会は、あんまりない。
「お前もやっぱり、こっちの方がいいか?」
トリコは聞いた。
ロリ属性がない奴なら、大体そうだろう。
「別に、やれればどっちでもいいよ」
ああーそうですか。
「最低だな、お前」
「どっちも好きだって、言ってるのに」
鯖丸は、手の甲でごしごし顔をこすって、椅子を立った。
「顔洗って来る」
洗面所に行って、水を出している音が聞こえた。
ちょっと泣いたら気が済んだらしい。
強い奴だなぁと思った。
「先に戻ってるよ。落ち着いたらおいで」
トリコは、ドアを開けた。
「そこにある焼き饅頭、食っていいから」
魔界で駅を降りた時、買っておいた菓子を指差した。
サリーちゃんと二人でつまんだが、まだ半分残っている。
「やった。全部食っていい?」
「いいよ」
トリコは、部屋を出た。
洗面所から、タオルで顔を拭きながら出て来た鯖丸が、嬉しそうに饅頭に手を伸ばしているのがちらりと見えた。
後ろ手でドアを閉めた次の瞬間、ガラスが破られる凄い音が背後で聞こえた。
うぐっという、くぐもった叫び声が続いた。
あいつ、一遍に二個以上口に入れやがったな…。
「鯖丸っ!」
振り返って、今出て来たばかりのドアを開けた。
部屋の真ん中に、ハンニバルが居た。
窓ガラスの破片が散乱した部屋の中で、見慣れた皮のコートを着た、見慣れた顔の男が、全く見た事のない表情で立っていた。
長く伸びた髪が、生き物の様にうねりながら、鯖丸の首を締め上げていた。
一昨日の晩見た時は、短かった髪が、メドゥーサの様に伸びて動いている。
こちらを見てにやりと笑うと、鯖丸を捕らえたまま、窓から空中に身を躍らせた。
ハンニバルを見張る為に、見晴らしのいい部屋を選択したので、ホテルの最上階に近い階層だ。
やばい。
魔界でなら、この程度の高さから落ちても、鯖丸なら怪我もしないだろうが、それは、重力操作の魔法を使える状態での話だ。
あのまま絞め落とされて意識を失ったら、いくらランクSの魔法使いでも、たぶん死ぬ。
トリコは、窓に向かって走り、身を乗り出した。
隣の部屋から、ジョン太が同じ様に身を乗り出していた。
一部始終を聞いていたのだろうが、アサルトライフルと短機関銃まで身に着けた、フル装備の姿で、鯖丸の刀を左手に握っている。
トリコと目が合った瞬間、一瞬のためらいもなく窓から空中に飛び出した。
「バカ、間に合わない」
いつもながら、判断が速過ぎて、ついて行けない。
魔獣を出して空中で拾えと云う事なのだろうが、あれは、鯖丸の攻撃魔法みたいに、一瞬で出せる物じゃない。
割れた窓から飛び降りて、落下しながら魔獣を放った。
飛び降りたジョン太は、鯖丸に向かって刀を投げた。
牽制するハンニバルに、拳銃を抜いて撃ち込んだ。
張られた結界は、立て続けに五発、全く同じ弾道で撃ち込まれた弾丸で緩んだ。
ジョン太にはめずらしく、六発目は外した。
投げた刀を、鯖丸が受け取ろうとして、手を伸ばした。
紙一重の差で、刀は弾かれて下に落ちた。
ハンニバルと鯖丸の姿は、地面に激突する直前に、かき消えた。
追尾して来た魔獣が、空中でジョン太を拾った。
魔獣に支えられて無事に着地したジョン太は、落下して来るトリコを見て、顔色を変えた。
「トリコ!!」
いくら何でも、あの高さから落ちた人間は拾えない。
それでもやるつもりらしく、手を伸ばして落下地点に駆け寄った。
トリコの背中から、真っ黒で巨大なコウモリの羽根が伸び上がった。
ばさりと風切り音を立てて、羽ばたいた。
地面に墜落する直前で体勢を立て直し、空中に舞い上がった。
そのまま、しばらく上空から周囲を確認して、降りて来た。
「そんな事も出来たのか」
巨大な羽根が畳まれて、背中に消えるのを、ジョン太は驚いて眺めた。
「行動速過ぎだ、お前」
魔獣を袖口から仕舞いながら、トリコは言った。
「この子はそんなに速く動けないんだから」
「すまん」
ジョン太は、屈んで刀を拾った。
「見失った。穴に行ったんだろうが、早く追いつかないと…」
また掠われやがった。どこのお姫様だ、あいつ。
「私が先回りしましょう」
何時の間に居たのか、海老原さんが横合いから刀を手に取った。
「救出までは無理かも知れませんが、これを渡すくらいならやれますんで」
外界でも魔界でも、何か棒的な物を持っていないと、鯖丸の攻撃力は格段に下がってしまう。
今の状態では、捕らえられたまま手も足も出ないはずだ。
「お願いします」
言い終わらないうちに、海老原さんの姿が消えた。
一瞬遅れて、音速を突破する時の衝撃波が、周囲を薙ぎ払った。
後を追って走り出そうとするジョン太を、窓から身を乗り出したヨシオ兄さんが止めた。
「待てや。なんぼジョン太でも、車のが速いわ。今行く」
窓の中に引っ込んだヨシオ兄さんに向かって、トリコは魔獣を出して飛ばした。
上の方から、ヨシオ兄さんの「食われるー」という叫び声が聞こえた。
そのまま、腹の中に兄さんを収納した魔獣が降りて来た。気の毒に、兄さんよろよろだ。
「姉さん、気ぃ短いわ、ほんま」
ポケットから、ランエボのスペアキーを出して、車の結界を解除しながら駆け寄った。
「急ぐんだ」
トリコは、めずらしく、後部座席ではなく助手席に滑り込んだ。
「分かっとる」
ジョン太が、後部座席に乗るのを確認して、ランエボは走り出した。
カーアクション映画の様な、派手なタイヤの空回りも無ければ、テールスライドもさせない地味な走りだが、あっという間にスピードメーターが100キロオーバーに入った。
「お前が本気で車転がしてるの初めて見たけど」
ジョン太は、感心した様に言った。
「マジで速いな」
「昔、六甲で走り屋やってん」
いつになく真剣な顔でハンドルを握りながら、ヨシオ兄さんは言った。
「実家は豆腐屋」
たぶん、これはボケだ。
「藤原豆腐店か、お前んとこ」
一応突っ込むと、ご満足な顔をしたので、ボケていたらしい。
「一応、レーシングライセンスも持ってたんやけどな」
魔界関係者のご多分に漏れず、この人も何か色々あるらしい。
一応免許は持っているが、車について何の興味もないトリコは、もっと急げとか無茶を言い始めた。
いや…これ以上急げる奴なんて、WRCとか、フォーミュラ何とかに出てる人くらいだと思うが…。
この凄さを分かってもらえないとは、ヨシオ君気の毒に…と思いながら、ジョン太はベルトの物入れを開けた。
使ってしまった弾を装弾して、更にごそごそ探っていたが、くそっ昨夜落として来たのか…とか言って物入れを閉じた。
「トリコ…ヨシオ君でもいいや。絆創膏持ってないか。出来れば指先に貼るやつ」
普通は持ち歩いてないと思う。
「怪我でもしたのか」
トリコは、後部座席を振り返った。
「いや、トリガー引く指に、ヒビが入っただけだ。どうって事ないんだけど、微妙な感覚が…」
さっき、一発だけ少し外していたのを思い出した。
「見せて」
100キロオーバーで疾走する車内で、トリコは後部座席に身を乗り出した。
手の甲まで毛皮に覆われているが、指先と手の平は無毛で、皮膚が露出している。
あまりじっくり見た事はなかったが、爪の形は普通の人間と同じだ。
その、爪の周りと手の平が、ひどい事になっていた。
がさがさに荒れて、爪の回りが何カ所かばっくり割れている。
何だ、この、お肌が弱いベテラン主婦みたいな手は。
「ちゃんとハンドクリームとか塗っとけよ」
トリコは呆れた感じで言った。
「いや…添加物入ってるやつ、アレルギーで」
ジョン太は言い訳した。
「無添加のワセリンは、鯖丸が使い切っちまうし」
「何に使ったんだよ」
分かっているくせに、トリコは意地悪で聞いてみた。
「後で鯖丸に聞け」
不機嫌に言ったジョン太の指先を、トリコは手を伸ばしてぎゅっとつまんだ。
ヒビの入っている指先をつままれたジョン太は、痛てぇと文句を言った。
回復魔法が通って、あっという間にひび割れていた指先が、つるつるになった。
「自分でやれよ、これくらい。魔法使える様になったんだろ」
「あ、そうか」
長年の習慣は、中々変えられない。
指先の微妙な感覚が戻ったのか、ジョン太は窓から身を乗り出して、アサルトライフルを構えた。
建設途中で放り出された鉄骨の向こうに、ちらりと人の姿が見えた。
この距離から狙うのかと思う間もなく、銃声が響いた。
道がカーブしている上に、路上に障害物が落ちている。
ヨシオ兄さんは、ほとんどスピードを落とさないで避けたが、体が遠心力で思い切り振られた。
トリコは、ドアの方に叩き付けられた。
「姉さん、シートベルト!」
ヨシオは叫んだ。
後部座席のジョン太は、何事もなかった様に踏み堪えて、更に撃った。
鉄骨の間をすり抜けた銃弾が、かろうじて見える人影に吸い込まれて行く。
誰をどう狙っているのかすら、普通の人間には分からない。
銃弾は、当たった瞬間にはぜた。
小さな爆発がいくつも起こり、人影は二つに分かれて飛んだ。
一方が長い物を持っているので、鯖丸だと分かった。
もう一人は、コートを着ている。ハンニバルだ。
海老原さんが居ない。
資材と重機を回り込んで、やっと穴の全容が見えた。
鯖丸の背後に、海老原さんが倒れている。
見た目の外傷はないが、動かない。
穴の縁に立った二人は、油断無く睨み合った。
鯖丸の上着が、何カ所も切り裂かれて、風に煽られている。
首にはまだ、切り離した髪の毛が巻き付いている。
ハンニバルが、ふいに腰の後ろに回していた腕を振り出した。
ブーメランの様に湾曲した刃物が、変形しながら襲いかかった。
鯖丸が空中に逃れ、反転して斬りかかった瞬間、ハンニバルの姿はかき消え、一瞬で背後に現れた。
銃声が響き、ハンニバルの手から刃物が落ちた。
走る車の中から、ジョン太が飛び降りていた。
あっという間に体勢を立て直し、片膝を付いた姿勢で、両手に構えた拳銃を撃ち込んだ。
「ジョン太!!」
振り返った鯖丸は、飛び下がり、海老原さんの襟首を掴んだ。
魔力を通して軽量化し、思い切りジョン太に向かって投げつけた。
いくら重力操作で軽量化しても、鯖丸の手を離れた時点で、元の重さに戻る。
普通に受け止められるのは、ジョン太くらいだ。
一瞬で銃を仕舞って、海老原さんを受け取ったジョン太は、振り返った。
突っ込んで来たランエボが、めずらしくタイヤを滑らせながらジョン太の背後に回り込んだ。
さすがヨシオ兄さん。良い位置にびたりと止めた。
いいタイミングで、トリコが後部座席のドアを開けている。
放り込んでから、今度はスコーピオンを抜いて、鯖丸に向かってフルオートで弾をばらまいた。
味方に向かって発砲して、どういうつもりだ…と、トリコとヨシオ兄さんは思ったが、短機関銃の弾は、全弾命中せず、鯖丸の周囲に留まった。
刃物を拾って、斬りかかったハンニバルの周囲で、空中に浮いた弾丸がはじけた。
空中に待機した弾が、盾になって鯖丸を守っている。
ハンニバルは、一旦後ろに下がり、ブーメランの様な曲刀を片手に提げて、思案した。
「海老原さん…大丈夫ですか」
トリコは、座席に放り込まれた海老原さんを抱き上げ、回復魔法をかけた。
黒縁の眼鏡を飛ばされ、びっちり七三に分けた髪の毛が乱れて、額に落ち掛かっている。
あれ…この人、こうして見ると、意外と綺麗な顔立ちをしているな…と思った。
自称、昔は美少年だったというのも、案外本当かも知れない。
「大丈夫です」
海老原さんは、目を開けた。
「僕の事はええですから、早う鯖丸君を」
残ったダメージは、あっと言う間に自分で回復し、背広の内ポケットから、予備の眼鏡を出して来て掛けた。
「何回も斬られとるはずです。自力で回復するのも、限界や」
「あいつ、回復魔法は苦手だからな」
トリコは、車の外に飛び出した。
「回復させる。そいつ、もう…」
「分かってる」
二人とも、鯖丸とリンクしているので、どの程度のダメージを受けているか分かる。
よく、まともに立って動き回れるな…と感心した。
体を乗っ取るのが目的なら、それ程痛めつけないだろうとタカをくくっていたが、死なない程度にはやるつもりらしい。
「俺がやる。援護しろ」
ジョン太が、どの程度魔法を使えるのか分からなかったが、信用するしかない。
鋭利な水の壁が、ハンニバルの前に地面から噴き出した。
間髪入れず、魔獣が背後から襲った。
ハンニバルは、全く意に介さず、前に踏み出した。
水の壁を蹴散らし、背後の魔獣を後ろ手に叩き付けた。
魔獣は、水滴になって四散した。
海斗の記憶を持っているので、手の内はほとんど知られている。
魔獣が打ち砕かれた瞬間に、トリコは後ろに飛び下がった。
追撃は、来なかった。
ジョン太が、鯖丸を抱えて移動していた。
本気で、魔力を使わない身体能力だけでの移動だったので、魔法使い以外相手にした事のない殿の弟子は、反応が遅れた。
たぶん、ハンニバルも同様だ。
戦闘用ハイブリットというのは、その辺に普通に居る様な存在ではないし、魔界でうろうろしている奴なんて、更に稀少だ。
魔法を使っていないので、追尾出来ない。
味方まで、二人の存在を見失った。
しばらく間を置いて、背後に佇む重機の向こうから、気配があった。
回復魔法が発動した。
熟練度は低いが、魔力は高い。
あっという間に回復した鯖丸が、重機の運転席に飛び乗った。
「ヨシオ兄さん、ケーブルこっちに投げて」
えええ、今のジョン太か?そんな魔力高かったんか、あいつ。
後部座席に放り出されたケーブルの束を、車のドアを開いて投げつけた。
運転席に座った鯖丸は、ポケットから出した変換プラグをインパネに差し込み、ケーブルに繋いだ。
束ねたケーブルを解しながら、もう一方の端を、自分の首筋に差し込んだ。
首に穴が空いている様な奴は、大体デジタルジャンキーだと思っていたヨシオ兄さんは、放置された重機が起動するのを見て、愕然とした。
「あいつジャンキーやのうて宇宙人か。あんなごっつい体して」
魔界の深部では作動しないはずの重機が、有線接続で動いた。
ジャックインプラグから、直接魔力を通されて二十数年振りに起動した重機が、腕を振り上げてハンニバルに襲いかかった。
地面がえぐられ、砂埃が舞い上がった。
後ろへ逃れるハンニバルに向かって、トリコが水滴に四散した魔獣を集めた。
「姉さん、そのまま」
車から走り出たヨシオが、四散した水の魔獣に冷気を放った。
鋭利な氷の刃物になった魔獣が、ハンニバルに襲いかかった。
ハンニバルは、障壁で防いだ。
惜しい。ヨシオ君とリンク張っとけば、もっといい感じで攻撃出来たのに。
一瞬思ったが、相方が死にそうになっている奴相手に、そんな事出来る訳がない。
ダメだこれ、職業病かも。
重機が、更にハンニバルを襲った。
鯖丸が、有線接続したまま、ケーブルを捌いて背後に回り込んでいる。
こうして見ると、十メートルは短い。ぎりぎりだ。
振り下ろされたパワーショベルの腕を、ハンニバルが片手で受け止めた。
人間業ではない魔力が、金属を伝わって重機を浸食して行く。
運転席まで伝わった魔力が、ケーブルに達した。
ケーブルが、どんどん変形しながら浸食されて行く。
首筋に届く直前で、鯖丸はケーブルを首から抜いて投げ捨てた。
「くそ、やっぱりこんなじゃダメか」
もう少しくらいは、足止め出来ると思っていた。
引き抜いたケーブルが、先端まで浸食され、空中を蛇の様にうねった。
背後から斬りかかろうとした鯖丸が、弾かれて倒れた。
立ち上がろうとした体に、ぎりぎりとケーブルが巻き付いて行く。
ケーブルを通って、魔法が来た。
ハンニバルの使う、物質系とも全く違う、見た事のない力が、発光しながらケーブルごと鯖丸を焼いた。
魔力の高い人間が、障壁も張らないでまともに攻撃魔法を食らったら、ひとたまりもない。
ジョン太が、重機に手を伸ばした。
指先が近づいただけで、体ごと弾かれた。
しまったという顔をして、魔力レベルを一気に下げ、運転席に飛び乗ってケーブルを引き抜いた。
ケーブル沿いに攻撃魔法を通され、悲鳴を上げていた鯖丸は、ぐたりとその場に動かなくなった。
まだ、魔力の通っている重機を投げ捨てて、ハンニバルが倒れた鯖丸に駆け寄った。
トリコが、滑空しながら鯖丸を拾い上げ、上空へ飛び上がった。
さっき見たコウモリだ。
水の魔獣より、圧倒的に動きが速い。
魔法だから、空力学的に飛んでいないのは分かっているが、70キロ以上ある人間を抱えて飛べるとは思わなかった。
それでも、限界の重量はあるらしく、明らかにスピードが落ちた。
ある程度離れた場所まで逃れたトリコは、羽を畳んで魔獣に乗り換えた。
「邪魔をするな」
ハンニバル…殿の弟子が叫んだ。
「そいつの体を寄越せ。それとも、お前の息子を代わりに差し出すか?」
トリコは、地面に降りた。
鯖丸を乗せた魔獣を、後方に引かせて、ハンニバルの前に立った。
「二択は嫌い」
三択も、もちろん嫌いだ。
「海斗の体で、そんな事言うな」
トリコの周囲に、何本もの渦が巻いていた。
地中と空中から集められた水が、竜巻の様に長く伸び上がって、獲物を狙っている。
「お前こそ、その体を出て、異界に帰れ」
水の竜巻が襲いかかった。
トリコが、魔獣以外の攻撃魔法を使うのはめずらしい。
魔獣を出して鯖丸を確保したままなので、他に方法が無いのかも知れないが、さすがランクS、攻撃系は苦手なはずなのに、かなり強い。
とは言え、殿相手に圧勝する様な異界の物に、勝てるとは思われない。
鯖丸を逃がす為に、無茶をしている。
乗っ取られたら終わりだ。
身体能力と魔力の高い体に、殿の弟子が入ったら、この場に居る全員が瞬殺されるだろう。
いつの間にか、ジョン太が、トリコの隣に立っていた。
重機からここまで、一瞬で移動して来ているが、魔法ではない。
身体能力だけで移動して、制止した瞬間に、一気に魔力を上げた。
両手に、32口径と44口径の、標準装備の銃を構えている。
ガンベルトの物入れから、弾丸が次々に飛び出して、空中で螺旋を描きながら装弾を待っていた。
殿の弟子が、魔法を使った。
周辺二十メートル近い地面が発光し、全体に魔力が通った。
白い光が、無数に地面から噴き出し、穴の周辺を飲み込もうとしていた。
本気でヤバい。
攻撃を仕掛けようとしていたジョン太は、一瞬の判断で止めた。
殿の弟子がハンニバル…いや、如月海斗に戻ろうとしている。
何度も、綱引きの様な力のやり取りがあって、瞬間、異界の物が人間に戻った。
「逃げろトリコ。これ以上押さえるのは無理だ」
如月海斗が叫んだ。
殿の弟子が出しかけた攻撃魔法が、キャンセルされていた。
ジョン太は、トリコの襟首を掴んで、全速力で魔法の攻撃範囲から逃げた。
後方で、行き場を失った魔法が暴発した。
これ、当たったら本気で死ぬ。
「うぉぉぉ、マジでヤバいー」
ここまで死にそうな目に遭ったのは、軍を退役して以来だ。
トリコを抱えて、100メートル七秒台の走りで逃げ出した。
ていうか、この年になってまだこんなに速く走れたのがびっくりだ。
安全圏まで逃れた時には、背後の地表が、深くえぐられたクレーターになっていた。
鯖丸が目を開けると、建物の中に居た。
見慣れた構造なので、遺棄されて荒れ果てていてもコンビニだと分かる。
「あ…ロー○ン」
「店名が分かる程、コンビニに通うな」
こちらを覗き込んでいたジョン太が、的確にツッコミを入れた。
飛び起きようとする鯖丸を、トリコが押し止めた。
「立つな。ゆっくり起きて座れ」
言われた通りにして、全身を点検した。
魔法で受けたダメージと、刃物で斬られた感触は、まだ残っていたが、もう外傷も痛みも無かった。
ああ、やっぱりトリコの回復魔法は効きが違うな…と思ったが、トリコは無言で隣に居るジョン太を親指で指した。
ええ、これやったのジョン太かよ。
「回復系、得意なんだ」
何となく、そんな気はしていた。
「そうかも」
ジョン太は言った。
「ちょっとぐらい練習させろっての。いきなり本番だよ、全く」
文句は言っているが、冗談を言っている口調なので、だいぶ自分の能力は把握出来たらしい。
気を失ってもしっかり握っていた刀を鞘に収めて、立ち上がろうとした所を、もう一度トリコに止められた。
「だから立つな。向こうに姿を見られたら、また距離を詰められる」
宿の部屋で、いきなり襲われた事を思い出した。
こちらからは、ハンニバルの姿が、辛うじて確認出来る程度だった。
当然、向こうからもどうにか見えていたのだ。
「お前が一人になる瞬間を狙って来た。済まん、不注意だった」
空間操作で距離を詰めて来るとは聞いていたが、あれほど離れた場所から移動して来るとは思っていなかった。
「ううん、俺も油断してた」
改めて周囲を確認した。
コンビニの、レジカウンターの中だ。
バックヤードと、反対側にある、壊れたドリンク用冷蔵庫の向こうに、皆が居る。
後から追い付いたらしく、エンマ君とサリーちゃんが、奥から手を振った。
「俺達がここに居るのは分かってるはずだけど、攻撃して来ないの」
鯖丸は聞いた。
「ああ、空間操作は、相手が見えてないと出来ないらしい。奴の攻撃魔法は、威力があり過ぎて、お前の体ごと何もかも壊しちまうからな。
お前が離れた瞬間に使って来たが…」
ジョン太は、トリコの方をちらりと見た。
「殿が使う魔法に似てるな。威力は桁違いに高い」
「ハンニバルの魔法を使えばいいじゃん。物質操作で、こんなコンビニぶっ壊せるんじゃないの」
「海斗が止めてるんだ。たぶん、私が居るから」
トリコが、ちらっと辛そうな顔をした。
「それに、これだけ魔力の高い人間が揃ってたら、うかつに手は出せない」
ふうんと、鯖丸はうなずいた。
「じゃあ、俺とトリコにつかず離れずの位置が、安全圏なんだ」
バカが何か考えているが、安全圏と言うには、だいぶ危険だ。
それでもまだ、比較的危険が少ない位置ではある。
「ハンニバルの相手は、俺がやる。皆は安全圏内でサポートお願いします」
バカなりに考えた結論がそれかい…と、ジョン太はツッコミかけたが、海老原さんが先にうなずいた。
「分かりました。好きな様にやってみてください。全力でサポートしますから」
ああ、海老原さんまでバカになっている…。ジョン太は、ぼんやり考えた。
「ただ、あれの狙いは君ですから、この中では一番安全やけど、乗っ取られたらたぶん、死ぬよりひどい事になりますよ」
今現在の、ハンニバルの状況がそれだ。
「そんな簡単には乗っ取られません。頭の中に自分以外の奴が居るのは、慣れてるから」
異界の物が浸食して来るのと、人格が分裂しているのは、全く別の話だと思うが、妙に説得力はあった。
「お前一人前に出す訳にはいかない。私も…」
トリコが言った。
魔力が高い割に、今までトリコが積極的に前衛に出て来た事は無かった。
同じチーム内に、鯖丸とジョン太が居れば、普通なら前へ出る必要もないだろうが…。
「トリコはダメだ」
鯖丸は、即座に却下した。
「ハンニバルとはガチでやれないだろ。絶対ダメ」
「出来るよ。仕事だからな」
トリコは言い返した。
「俺は無理」
鯖丸は、トリコの手を取って引き寄せた。
そのまま抱きしめて唇を重ねた。
トリコは、少し驚いた表情をした。
人前で…と云うか仕事中にこんな事する奴じゃなかったはずだけど。
「この仕事は、私情抜きじゃ出来ない。だって俺、トリコの事大好きだから」
はい…?いや、知ってたけど、今する話か、それ。
「だから、ええと…」
「考えてからしゃべれ、バカ」
トリコは、鯖丸にデコピンを入れてから、ちょっと考え直して軽くキスを返した。
「後で聞くよ、その話は」
「今聞いてくれよ。簡潔に二十文字以内にまとめるから」
バカがぶつぶつ言いながら、文字数まで数え始めた。
「後でいいだろ」
後頭部をぴしゃりと叩くと、あー三十二文字とか言っていた鯖丸が、きっとこちらを睨んだ。
「だって、今言っとかないと、俺、殿の弟子に乗っ取られて、戻って来れないかも知れないじゃないか」
「戻って来ない奴の話なんて、聞きたくない」
トリコは言った。
「しっかりしろよ。無敵なんだろ、お前」
鯖丸は黙り込んだ。
根拠のない自信だけで勝てる相手ではない事は、ちゃんと理解しているらしい。少し安心した。
「私も、お前が好きだ」
そんな事を口に出して言うのは、初めてだった。
自分で気が付いて、ちょっと驚いた。
鯖丸の方が、もっと驚いた顔をしている。
繋いでいた手を、ぎゅっと握られた。
「うん…俺今、無敵になった。誰にも負けない」
繋いだ手から、様々な感情と力が流れ込んだ。
好意と愛情と欲望と、それから、孤独な人間だけが知っている、もっと切実で、身を切られそうな感情が…。
寂しくて死にそうだ…誰か、誰か、助けて。
結局同じなんだな…私らみたいなもんは…と、トリコは思った。
繋いだ手を振り払う事も、握り返す事も出来なかった。
コンビニの窓から向こうを窺って、数時間が過ぎた。
遠方の視界が確かなので、見張りを買って出ていたジョン太は、肩をすくめた。
「動かないな…何かまた、コーヒー飲んでる。ジャマイカだ。一杯でいいからそれ寄越せ」
「缶コーヒーならあるよ」
トリコは、上着のポケットから、自販機で買ったコーヒーを取り出した。
「微糖だけど」
「ああ、ありがとう」
ぬるいコーヒーを飲んで、ジョン太はため息をついた。
「消耗戦になるのか…これ」
「海斗の体がダメになる程、こっちは有利になるだろうけど」
トリコは言った。
「そこまで持ち堪えられないだろう、こっちも」
俺は出来ると言いかけて、ジョン太は黙った。
俺一人出来ても、意味がない。
「お前、どうするんだ」
ジョン太は聞いた。
トリコは、こちらを見上げた。
「鯖丸だよ。あいつ、自分の将来設計に、がっつりお前を組み込むつもりだぞ」
「知ってるよ、そんな事」
トリコは答えた。
「何て言うか…思い込み激しいからなぁ、あいつ」
「そろそろどっちかに決めろよ」
ジョン太は言った。
「いや…、どっちもダメでもいいけど、何か結論出しとけ」
「私だって、考えてるよ」
トリコは、意外な事を言った。
「あんなバカと付き合ってたら、命が幾つあっても足りないって言うか…」
言葉を止めて、ちょっと笑った。
「一生退屈だけはしないな」
「人生は九割退屈くらいで丁度いいと思うけど」
七割方退屈でない人生を送って来たジョン太は、忠告した。
「まぁ、あれ、将来大物かも知れないから、今の内に確保しとくのも得策かもな」
一応、付け加えた。
「退屈じゃないけど、幸せとは限らないぞ」
「どうでもいいよ、そんな事」
トリコは言った。
「私はただ…」
ジョン太は、ため息をついた。
「お前、あんなバカと本気で付き合ってたんだ」
「悪い?」
「いや…意外だっただけだ」
ジョン太は言った。
「バカの暴走は、止める方向で行かないとな」
トリコは、鯖丸の方をちらりと見た。
いつも通りと言えばそうだが、この状況で熟睡している。
確かに大物だ。
「あいつは甘い考えでいるけど、ハンニバルは壊すからな」
トリコは、はっとしてジョン太を見た。
「穴に突き落として、うやむやにする事も考えたけど、どうせすぐ戻って来る。今入ってる体を、使い物にならないくらい壊して、異界に逃げる前に捕まえるしかない」
「うん」
「だから、お前は前へ出るな。たぶん俺、お前のダンナの体、ぐちゃぐちゃにするぞ」
「魔法使いになって一日も経たない奴に、そんな事出来るのか」
トリコは聞いた。
「多分な、鯖丸と二人でやれば。俺、自分で思ってたより、魔力高いみたいだし」
それはトリコも気が付いていた。
魔力の高さが変動するので、上限がどの辺なのかは分からないが、かなり高い事は確かだ。
「さすが、トラウマだらけの元ジャンキー。伊達に暗い過去は背負ってないな」
「嫌な事言うなよ」
ジョン太は、肩をすくめてちょっと笑った。
それから、目を細めて遠くを凝視した。
「ハンニバルが動く。皆を呼んでくれ」
トリコは、皆に声をかけてから、振り返った。
「二人じゃダメだ、三人で行こう。だって私らはチームなんだろ」
ジョン太は黙ってうなずいた。
2009.3/21up
ぐだぐたな後書き
冷静に考えると、三匹の人間関係ぐだぐだになって来ました。誰も冷静に考えてないので、大丈夫だけど。
何となく、一番気の毒なのはジョン太の様な気もするけど、彼は気の毒な方が面白いのでいいや、もう。
次回予告
次回はアクションシーンばっかりです、たぶん。